心のお薬になる本(35)『生きていく私~』宇野千代/著
この(35)「心のお薬になる本」のブログは、カウンセリング歴30余年の大阪の「5時間で1回きり」の「潜在意識の本質と使命とトラウマ」を探る心理カウンセラー&本質セラピスト三宅麗子の投稿頁です。
★心のお薬になる本(35)
◆『生きていく私人生相談篇』宇野千代/著
今回ご紹介する本の著書宇野千代氏は、小説家であり随筆家であり編集者であり着物デザイナーであり実業家でもあった才能豊かな女性です。
その人が人生相談をした珍しい本です。
カウンセラーにとっては最高の一度は読むべき日本的カウンセリングの教科書的な一冊でしょう。
著者である宇野千代は、この本の「あとがき」で書いておられます。
「身の上相談をやってくれないか、或るとき、係りの福田淳さんから話があった。私は例の通りに、身の上相談なんか簡単だと思って、ほいほいと引き受けたものであったが、やって見ると、まるで見当が外れた。(中略)」と…。
また著者は、「ああ、そうかそうか。よくもあなたは、そこまで辛棒したものだ。そういう辛棒はなかなか出来るものではない」と言って、回答者である私(宇野)は、その質問者と同じ気持になって、その場所から、質問者を担いで、一緒にほんとうの回答の場所まで上って行くのである。すると、その質問者は、恰も自分が最初から、その回答の答えまで知っていたかのように錯覚して、私の回答に対して心の底から満足するものだからである。」と…。
まさに、この文章こそが、カウンセラーにとってはクライアントに対する不可欠の接し方である。西洋式の形ばかりの「共感」という手法とは、似ているようですが、私には全く違うように感じてしまいます。それは、別に宇野氏は、「共感」という言葉を使わなくても、自然な心や気持で、素直にそういう態度になるのでしょう。それは、宇野氏にとっては、「技法」と呼ぶのではなく「姿勢」、或いは「態度」というほうが相応しいように感じます。西洋式のカウンセリングがまだ日本に根付かないずっと前から、こういう素晴らしい人生相談をされていた宇野氏に頭が下がる思いです。
また、著者は、「それにしても、いつの場合にでも妻だけが被害者であるかのように錯覚されることが多いのは、どう言う訳だろうか。良人もまた、被害者である場合もあるのに、男はそんなとき、無言で堪えていると言うのであろうか。そんなことは決して有る筈がないのに、さもそうであるように思われているのも不思議である。身の上相談にはいろいろな問題があると思うが、人間性を知る上には、こんなに重要な仕事があったのかと、私は有り難くも感じている。とにかく私は、自分の全力をあげて、この仕事に当たった。面白い仕事であった。」と結ばれている。
とかく、女性の回答者は、女性の味方で、こういう公平なモノの見方、感じ方ができる女性は、今の現在でも珍しい。この大地にしっかりと根を張っている、一人の自立した強い女性を感じずにはおれません。今の女性のほうが、教育が行き届いているにも関わらず、ちっとも強くも賢くもなく、悩める女性が多いのは、一体どういうコトでしょうか。
宇野氏が小説を書く上で、この人生相談はご自身も「人間とは何ぞや」という永遠のテーマが少しは勉強できた貴重な出来事だったのでしょう。それほど、人間性を知る上では、人の身になって感じるというコトがいかに難しいかを物語っている証ともいえるのでしょう。
だから、私はカウンセラーという職業は、アカデミックな場での勉強や資格などよりも、やはり人間道場とも言うべきこの世の中での貴重な経験と実績がモノを言うのではないかと思っています。
だから、苦労している人のほうが、相談者の痛みや苦しみがより実感として受け止められのではないでしょうか。それはとりもなおさず、その人の立場に立ってモノを感じる、把握できるということなのでしょう。
この本の内容である相談自体は、宇野氏は、人を見て法を説いているように感じます。同じような質問でも、回答がいろいろ異なっていて、やはり、一人ひとりの場所まで降りて行って、また上がって来る様子が詳細に記されていて、本当に共感できて、見習うべき素晴らしい回答です。
特に、「あなたは~だと言うのですね。」というフレーズが頻繁に繰り返されています。これが相手の言い分をまず認め、そしてその気持に寄り添って、一緒に感じる、考えるという姿勢を貫く手法なのでしょう。まさに、宇野氏ならではの回答方法なのです。真摯に何度も何度も相手に「~と言うのですね」と問う思いやりには、本当に頭が下がります、と同時に、これが、日本的な一番の回答方法で、まさに「おもいやりカウンセリング」と言えるものです。
私は、ずっとずっと前に、女性作家の小説を読み漁ったコトがあります。離婚の真っただ中にいて、人に相談する勇気もなく、宗教や心理学にも飽き足らず、自分の悩みを解決するためには、自分自身の心理を見つめるコトで、とうとう、思い至った先は、日本の女性作家の本を読み漁るコトでした。それが一番の方法ではないかと感じ、手当たり次第に読んだものでした。
しかし、その当時は、瀬戸内晴美や宇野千代などの自由奔放に恋愛する女性には、ちょっと道徳的な拒否反応が湧いてきて、参考にはなりませんでした。まったく別な世界に生きる女性たちで、自分には遠い存在と感じていたのでしょう。
しかし、最近、宇野千代のこの本を読んで、あの当時では感じなかった、あるべき人間らしさ、女性らしさが感じられ、また、相談者に真摯に取り組む姿勢に、カウンセラーのあるべき姿を感じて、びっくりした次第です。
そういう意味では、宇野千代は、誇るべき「日本のカウンセラー」ではないでしょうか。別に、西洋にその方法を学ばなくても、いくらでも素晴らしい日本人はいたり、日本的手法はあるものです。だから、私は、これからも宇野氏の『人生相談篇』を見習っていきたいと、強く心に念じました。